地域活動AtoZ

2021年3月掲載

volume 5ワンランク上の写真術 その1 (撮影・一眼レフカメラ編)

情報発信を行う際、テキスト内容と並んで(時には、それ以上に)大事なのが写真です。スマートフォンの普及で写真を使った情報発信のハードルは、ぐんと下がりましたが、簡易なツールだけにスマホのカメラや加工アプリの表現力には限界もあります。そこで杉並区内で活動する「撮影」「画像加工」それぞれのプロに、スマホ以外のツールを使ったワンランク上の写真術を実践例で教えてもらいました。今回は「その1 撮影・一眼レフカメラ編」です。


前提: スマホの機能もチェックして活用!

近年、スマホのカメラ性能は著しく向上し、高画質の写真が撮影できる新機種が続々登場しています。 中には、iPhoneを中心に進化した高性能のレンズやアプリを搭載したスマホも誕生。機種によってかなり差がありますが、使いこなせばスマホでも一眼レフでの撮影に近いビジュアルを得られることがあります。

例えば、

■デュアルカメラ搭載機種では、背景ボケ演出の撮影モードが使えることが多い。
 (例:iPhoneの「ポートレートモード」等)
■HDR機能(同時に撮影した明るさの異なる複数画像を合成する機能)を利用すると、明暗差が大きな撮影シーンで、画像を自動補正してくれる。
■露出調整や色調調整が可能な機種もある。
■長時間露光に対応したアプリなども登場。

また、手軽に持ち運べる利点はスマホならではの魅力です。「一眼レフにはすぐに手が出ない…」という方も、まずは一度、自分のスマホでどんな撮影が可能なのかカメラ機能を確認してみると良いでしょう。


一眼レフならではの撮影術とは

その上で、やはり一眼レフカメラだからこそ可能な撮影もあります。

■センサーサイズが大きく、より高画質な写真が撮れる。
■F値(絞り値)、シャッター速度、露出補正(明るさの調整)、ISO感度(光を感じる度合い)、WB(色味調整)等の機能を自在に組み合わせることで、よりイメージ通りの撮影が可能。
■レンズ交換ができ、使用するレンズの種類・性能によって超望遠から超広角まで多彩な撮影が可能になる。また外付けのエレクトロニックフラッシュ(いわゆるストロボ)、三脚やレリーズ(遠隔でシャッターを操作できる機器)、レンズに装着するNDフィルター等、周辺機器の活用でより高度な撮影が可能。


プロカメラマンに、実際に一眼レフで撮影してもらいました。

杉並区在住のカメラマン・多田誠さんに、一眼レフカメラの機能を生かした撮影例を示していただきました。今回は、地域活動の撮影シーンでも対処を迫られることが多い「背景の写り込み」「逆光」を例にとって、実践的にご紹介します。

1  背景の写り込み

人物を撮影するとき、「背景の写り込み」が気になったことはありませんか?

写真1(F値20  /焦点距離24mm)

写真1は、後ろに商店街の諸要素や通行者がハッキリ写りこんでいて、モデルとなった手前の少年が映えず、人物写真としてはやや雑然とした印象です。

【対処A:背景ボケを活用】

背景が「ボケ」るように撮影すると、自然に被写体が「映える」写真になります。

●F値を小さくし、望遠レンズで撮影

写真2(F値4 /焦点距離105 mm/望遠で撮影)

・F値=絞り値が小さい⇒ボケ方が大きくなる
・望遠レンズで撮影(焦点距離を長くする)⇒ボケ方が大きくなる
という2要素を用いています。
商店街の風景がフワっと自然にボケて、買い物客の姿もシルエットになり顔の写り込みを回避しています。モデルの少年が引き立ち、画面に奥行きが生まれて雰囲気のある写真になりました。

●被写体に近づいて撮影

写真3(焦点距離31 mm/広角で近づいて撮影)

一眼レフカメラの場合、被写体と背景に一定の距離があれば、カメラマンが被写体に近づき撮影距離を縮めるだけでも、背景はボケます。写真3は、写真2ほどではありませんが、背景が気にならなくなっています。(このテクニックは一部のスマホでも応用可能です)

●被写体に近づき、望遠レンズで撮影

写真4(焦点距離93mm/望遠で近づいて撮影)

・撮影距離縮める⇒ボケ感が大きくなる
・望遠レンズで撮影(焦点距離を長くする)⇒ボケ感が大きくなる
前出2例の合わせ技です。モデルのすぐ後ろの花も、背景に溶け込むようにボケています。

【対処B シャッタースピードを遅くし、通行者のみをブレさせる】

動きのある背景(通行者、車、電車など)の写り込みを、おしゃれに演出したいとき、シャッタースピードを遅くすることで、動くものだけを効果的に「ブレ」させることが可能です。スマホでも撮影できないわけではありませんが、三脚でのカメラ固定やシャッタースピードの自在なコントロールが可能な一眼レフなら簡単におしゃれな仕上がりになります。

例えば、「人通りのあるイベント会場で、立て看板や垂れ幕を背景に記念写真を撮る」という場合にも役立つテクニックです。

写真5(シャッター速度 1/15 秒)

三脚使用。シャッター速度を1/15秒まで遅くして撮影。

※この時、メインで写したい被写体(モデルの少年)は、静止している必要があります。人物撮影の場合は、傍にある固定物に体を付けてもらうなど安定して静止を保つ工夫をすると良いでしょう。

写真6(シャッター速度 1/15 秒)

歩行者は自転車より速度が遅いので、同じシャッター速度でも軌跡が小さいのがわかります。また、背景のお店や同じ位置で作業している店員さんは、モデルの少年同様、ブレていません。

【対処C スローシャッター(長時間露光)撮影で、通行者の写り込みを無くす】

写真7(F値7.1  /シャッター速度 1/250 秒 /焦点距離35mm /ISO400 )

通行者が多い駅前の風景。【対処B】を応用した極端な例です。超スローシャッター(長時間露光)で撮影すると、動いている人物を消して静止している建物だけ撮影することが可能です。周辺機器の活用で、より効果的な撮影が可能なのも、一眼レフカメラの良いところ。人通りが絶えない場所の固定物を撮るときに意外に便利なテクニックです。

写真8( F値22 /シャッター速度20秒 / 焦点距離35 mm /ISO100)

20秒間、シャッターを開いたままで撮影。実際には写真7と同数の人が行き交っていますが写真には写らず、建物のみが撮影できています。写真右をよく見ると立ち止まっていた人物がうっすら写っているのがわかります。手振れを防ぐため三脚とレリーズ(遠隔でシャッターを操作できる機器)を使用。加えて長時間露光による光の取り込み対策としてNDフィルター(レンズに入る光量を低下させるフィルター)を取り付けて撮影しました。


2 逆光

日差しの強い屋外でのイベント風景や集合写真など、「逆光」の条件で撮影を迫られて、太陽を背にして写したら人物の顔が真っ黒になった、という経験はありませんか?

写真9(カメラの自動露出のまま)

上の写真は柏の宮公園近くです。特に対策を取らずに逆光で撮影。人物が暗くなって表情も不鮮明に。帽子、マフラー、コートの色も黒くつぶれて元の色味がわからなくなっています。紅葉も、やや黒ずみがち。

【対処A 露出補正で明るさを調整する】

露出を明るく調整すると、かなり補正できます。背景の色の出方も考慮し、細かく調整してみましょう。

●やや明るく調整(補正・弱め)

写真10(露出補正+1)

●明るく調整(補正・強め)

写真11(焦点距離76mm /露出補正+2)

●明るく調整(補正・強め)+人物を手前に大きく配置+望遠

写真12(焦点距離105mm /露出補正+2)

写真11と同じ補正値ですが、望遠で人物をアップにすることで、さらに明るく柔らかい印象になります。

【対処B ストロボ発光で撮影する】

逆光の場面では、ストロボ撮影も有効です。一眼レフの外付けストロボを使用すれば、逆光でも美しい仕上がりになります。(スマホでもフラッシュ撮影を試してみてください)。

●ストロボ無し

写真13(ストロボ未使用)

上の写真は、神田川ウォーキングロードです。特に対策を取らずに撮影。全体的に黒く沈んでいます。
ストロボ発光度を段階的に変えて撮影してみました。

●ストロボ発光(弱)

写真14(ストロボ使用・弱)

●ストロボ発光(強)

写真15(ストロボ使用・強)

いかがでしたか。ウェブ(ホームページ、SNS)での情報発信で「映える写真」はアクセス数やフォロアー数を増やす大事な要素です。ワンランク上のビジュアルを持つ写真を目指して、ぜひ一眼レフカメラでの撮影にもチャレンジしてみてください。


撮影協力:多田誠さん プロフィール

下高井戸在住のカメラマン。キャノン主催の全国的なフォトコンテストをはじめ受賞歴多数。文部科学省後援フォトマスター検定EX(エキスパート)認定。杉並区公式情報サイト「すぎなみ学倶楽部」の区民カメラマンとして地域での撮影活動にも協力。プロ、セミプロ鉄道写真家のグループを主宰し、ブログで作品を公開中。

▼多田さん主宰のブログ「レールカフェ」
http://rail-variety.cocolog-nifty.com/blog/

ワンランク上の写真術その2は「画像加工・Photoshop編」です。

(執筆/すぎなみ地域コムサポートチーム N)