地域活動AtoZ
2020年9月掲載
地域活動とクラウドファンディング
営利を目的としない地域活動でも、イベントや新事業など「やりたいこと」を実現するために、まとまった資金調達が必要な場合があります。また活動継続のため、緊急に資金援助を得たいということもあるでしょう。そんなときの手段として注目されているのが、ネットを使った「クラウドファンディング(crowd funding)」です。
その基本的なシステムと、実際にクラウドファンディングで資金調達に成功した杉並の地域団体の取り組みを紹介します。
クラウドファンディングとは
クラウドファンディングは、「群衆(crowd)」と「資金調達(funding)」を組み合わせた造語です。起案者(団体や個人)が、クラウドファンディングサービス運営会社のウェブサイトを通じてプロジェクトへの支援を呼びかけ、不特定多数の人から少額ずつ資金を集める手法を指します。
2000年代にアメリカで「Indiegogo」や「Kickstarter」などの運営会社が設立されて以降、各国で団体・個人問わず幅広いジャンルの資金調達手段として気軽に利用されています。
日本では、2011年に「READYFOR」「CAMPFIRE」の2社がサービスをスタート。同年発生した東日本大震災の寄付チャンネルとして活用されて認知度が上がり、2016年には運営会社「Makuake」で制作資金を集めたアニメ映画「この世界の片隅に」が大ヒットして話題になりました(荻窪にある株式会社MAPPAが制作を担当)。また2020年現在、新型コロナウイルスの影響を受けた事業者のプロジェクトに対して運営各社が手数料を引き下げる措置を実施し、さらに利用のすそ野が広がっています。
基本的な種類と仕組み
支援者が受ける特典や資金の性質によって「購入型」「寄付型」「融資型」「投資型」等の種類があります。
※ここでは地域活動での利用が想定される「購入型」「寄付型」について説明します。
<購入型>
起案者のプロジェクトに賛同した支援者が、支援した金額に応じて起案者が準備したリターン(商品、サービス、オリジナルグッズなど)を受け取れる方式。※金銭的なリターンは受け取れません。
「購入型」には、目標額の達成との関連で「All or Nothing型」または「All in型」の2タイプあります。
★「All or Nothing型」
募集期間内に、起案者の設定した目標金額に達した場合のみ、プロジェクトが成立するやり方です。
- 目標金額に達した場合⇒プロジェクト成立(資金を受け取れる)
- 目標金額を達成できなかった場合⇒プロジェクト不成立(支援者に全額返金)
★「All in 型」
目標金額を達成できなくても、資金を受け取れるやり方です。
ただし、集まった金額に関わらず、起案者は必ずプロジェクトを実行しなければなりません。
目標金額が集まってはじめて実行可能となるプロジェクトの場合には、「All or Nothing型」を選んだ方が良いでしょう。
<寄付型>
プロジェクトへの賛同者から、寄付を集める方式。主に、災害支援などの社会貢献型のプロジェクトで利用されます。原則としてリターンはありません。
(注意)運営会社によって、利用可能なシステムは異なります。検討時に確認しましょう。
初めてのクラウドファンディングで目標金額を達成した、杉並区内の2団体にインタビューしました。
<すぎなみkarutaプロジェクト> 代表 荻本和利さん
プロジェクト名「世界のみんなとオリジナルかるたを作って、かるた取りをしたい!」
- 利用した運営会社 READYFOR (購入型/All or Nothing)支援総額 526,000円(目標金額500,000円) 支援者50人
- 支援総額 526,000円(目標金額500,000円) 支援者50人
- 主なリターン:オリジナルかるた、お礼状、グローバルかるた等のオリジナルかるたの一覧
渋谷でイベントを開催するため思い切ってチャレンジ
これまで主に杉並区内で、かるた文化を広めるイベントを行ってきました。「この取り組みを区外へも広げたい!」と夢が膨らみ、どうせやるなら思い切って渋谷ヒカリエの8階オープンスペースを借りて新春イベントを開催しようと仲間と話し合いました。
しかし、立ちはだかったのが資金の壁。今まで利用していた杉並区の助成金は、区外で開催するイベントには適用できず、会場費と設営費用に当たる30万円以上の資金をどうやって調達するか悩みました。そんなとき、全国レベルのプラットフォームサイトにプロジェクトが掲載されるクラウドファンディングに魅力を感じ、「活動がどう見られているかの試金石にもなる」とチャレンジしました。
成功のカギは「キュレーターの利用」と「知人に出した300件超のメール」
利用したのは担当キュレーター(プロジェクト終了までアドバイスをくれるスタッフ)つきのコースでした。手数料率は上がりますが、初心者にとっては専門的な視点で併走してくれる強い味方。特に重要だったのは「払ってくれるのは周囲の人。まず身近なところにお願いするのが鉄則」という助言でした。「嫌がられても頼みなさい」と(笑)。そこで主要メンバー3名で、地域活動で得たつながりにメール、電話、対面でプロジェクト成功を訴え、私だけで300件を超えるお願いメールを出しました。また当然のことですが、支援者がサイトに寄せて下さったメッセージには、必ず心を込めてお礼を返信しました。
もう一つ大事だったのは「最初の1週間、立ち上げが大事」とのアドバイス。確かに追い込みでは間に合わない可能性があるので、スタートダッシュで頑張りました。
渋谷ヒカリエのイベントは大成功!
身近な方の支援を中心に、目標額を達成。2020年1月4日、5日に渋谷ヒカリエ8F COURTで「Karuta2020 かるたで広がるワクワク世界」の開催に成功しました。2日間で予想を超える250名以上が来場。中には杉並区外からREADYFORのサイトを見て、自分のオリジナルかるたを持ってきてくれた方々もいました。
少し背伸びした感がありますが、自分たちの取り組みを客観視でき、応援して下さる方への感謝の思いが尽きないチャレンジとなりました。これから新しい活動に踏み出す勇気をもらいレベルアップにつながったと思います。
▼「世界のみんなとオリジナルかるたを作って、かるた取りをしたい!」
(外部サイト:READYFOR公式サイト掲載)
https://readyfor.jp/projects/wakuwakukaruta
<和泉明店街(沖縄タウン)>
後藤裕子さん(地域クリエイタ―)
長友大晟さん(専修大学経営学部2年生)
左:長友さんがアルバイトしている沖縄料理店の前で 右:全店舗に設置したチラシ
プロジェクト名「~杉並のちいさな沖縄~ コロナに負きらん!沖縄タウン・エールプロジェクト」
- 利用した運営会社 CAMPFIRE (購入型/All in)
※同社の「新型コロナウイルスサポートプログラム」を利用 - 支援総額 1,600,560円(目標金額 1,500,000円)、支援者数246人
- 主なリターン:沖縄タウン商品券、刺しゅう入りトートバッグなど6種のオリジナルグッズ、HPへのお名前掲載
愛する沖縄タウンにエールを送ってほしい!
(後藤)2017年から、沖縄タウンを応援したいという想いを持った高校生や大学生、地域の若者で、商店街の活性化に取り組んできました。しかし、杉並区から助成を受けて準備していた2月末の「わくわく夜市」が、新型コロナウイルスの影響で中止になり、営業の先行きも見えない各店舗に、どうやったら少しでも元気になってもらえるか考えました。
(長友)商店街の活性化に関わるかたわら、沖縄タウンの沖縄料理店でアルバイトをしています。このコロナ禍を、お客さんとお店が励まし合いながら乗り切る方法はないかと模索する中で、「クラウドファンディング」という、起案者の夢やロマンを賛同者が応援して、一緒に目標達成を目指すシステムなら、双方向でエールを送り合えると思い、このプロジェクトを立ち上げました。
「クラウドファンディングって何?」からのスタート
(長友)商店街の全44店舗にプロジェクトへの参加を呼びかけました。年配の店主の方も多く、最初は「クラウドファンディングって何?よくわからないからウチはいいよ」という反応も。それでも、時間をかけて丁寧にお一人お一人にお話を聴いてもらい、最終的にはメッセージボードを持ってチラシや動画に登場してもらったり、リターンの選定に参加してくれたりと、理解が広がりました。
(後藤)地元のシンガーソングライターの方に応援ソングを作っていただいたほか、沖縄タウンの常連でもある刺しゅう作家さんにリターンのトートバッグ作成をしていただくなど、プロジェクトを通じていろんな方の力を貸していただきました。All in 方式を選択したため、目標額に達さなくても支援金を受け取ることはできたのですが、実施にも費用はかかってしまいますし、何よりも沖縄タウンの店主さん、そして応援してくださった方々に「達成!」の報告をしたい!と強く思い、最後まで粘り強く発信を続けました。
SNSやオンラインツールの活用
(長友)クラウドファンディングはネットを使った手法なので、サイトの「活動報告」をこまめに更新する、フェイスブックやインスタグラム、メンバー個人のTwitterなどSNSを総動員して応援を呼びかけるなど、オンラインでの拡散を意識しました。コロナ感染予防の観点もあり、運営会議はzoomを利用。図らずして商店街のITリテラシー向上にもつながる結果となりました。
(後藤)プロジェクトが各種メディアに紹介され、沖縄タウンの認知度もアップしたのでは、と思います。応援して下さった方がリターンの商品券で沖縄タウンでの飲食や買い物を楽しんでくれたら、うれしいです。ご協力いただいた支援金は、商店街の運営費用や、今後の商店街活性のために大切に使わせていただきます。
▼「~杉並のちいさな沖縄~ コロナに負きらん!沖縄タウン・エールプロジェクト」
(外部サイト:CAMPFIRE公式サイト掲載)
https://camp-fire.jp/projects/view/281407
利用を検討する際のポイント
<ポイント1>利用会社の選定
クラウドファンディング運営会社は、年々増えており、各社サービス内容が違います。 「寄付型に強い」「手数料が安い」「特定の分野のプロジェクトに強い」など特徴を見極めて選びましょう。
<ポイント2>目標金額の設定に注意
集まった支援金額=プロジェクトに使えるお金ではありません。
「プロジェクト実施に必要な金額」+「リターン実施に必要な金額」+「運営会社の手数料」を含む金額で設定する必要があります。シビアですが、目標金額の設定を誤ったり、達成できなかったりした場合は赤字となるおそれも。また終了後、運営会社から支援金が振り込まれるまで一定期間がかかります。入金のタイミングも必ずチェックしましょう。
<ポイント3>目標を達成するためには、努力が不可欠
サイトにプロジェクトを公開しただけで、資金が集まることは稀です。今回ご紹介した2つの団体の例を見ても分かるように、ネット上での情報拡散、周囲への地道な働きかけなど努力が不可欠です。
<ポイント4>支援者側のIT理解が必要
支援者側も、運営会社のサイト会員登録や、オンライン決済(クレジットカード、携帯キャリア決済サービス等)など、ネット上の諸手続きについて一定の理解が必要です。支援者が少額の手数料を支払うシステムを取る会社もあります。
<ポイント5>プロジェクト終了後のリターンまで視野に入れて
支援者へのリターン作業にかかる日数も視野に入れてスケジュールを組みましょう。
(執筆/インタビュー 内藤純子)